企業記事

日扇産業株式会社|ママは発明家! 幾多の苦労を乗り越え、掴んだ奇跡

2013.12.23

日扇株式会社 ママは発明家!幾多の苦労を乗り越え、掴んだ奇跡

◆取材:加藤俊 23_Nissen_sangyo01 日扇産業㈱/専務取締役 菅沼敬子氏

 常識を覆す「新・洗剤」!

家の中を見渡すと、様々な洗剤があることに気付く。台所用、浴室用、トイレ用、床用……。さらにはペット用品専用洗剤なんてものまである。従来、洗剤といえば、用途別に使い分けなければならなかった。この煩わしさから解放される洗剤が、この度発売された。一本ですべての用途に使うことができる奇跡の洗剤、その名も「ニッセンミラクル」。 実はこの洗剤、開発したのは、東上野の小さな専門商社なのだ。そしてその開発経緯にはとてつもない苦労話があった。笑顔を絶やさない敬子専務の気丈な振る舞い、その裏にある奇跡の物語を紹介する。    

社長倒れる!

23_Nissen_sangyo02 「ニッセンミラクル」を開発・製造・販売している日扇産業株式会社は、昭和40年に創業した化学工業薬品の卸会社だ。主に界面活性剤を卸している。 よく聞く界面活性剤という言葉だが、その役割を答えられる人は少ないだろう。簡単に言えば、「物質の界面に働き掛け、本来は馴染まないもの同士を馴染ませることができる物質」のこと。「界面」とは物同士の境目を言い、例えば水と油のような混じり合わない物の間に界面が存在するというわけだ。界面活性剤は、この界面に働き掛け、界面の性質を変えて水と油を混じり合わせることができる物質なのである。 この界面活性剤は洗剤や化粧品、インキなどに含まれていて、日扇産業ではそういった製品を作るメーカーにこれを卸している。 だが、あることをきっかけに、会社がピンチに陥ったのだと専務取締役・菅沼敬子氏は言う。   「社長の菅沼康行が体調を崩したんです。それを境にそれまでお取引のあった大手メーカーが手を引き始めました」 日扇産業社長・菅沼康行氏は敬子氏の夫。二人三脚で会社を切り盛りしていた社長の健康問題は、社業に暗い影を落とした。   「脳梗塞です。都合4度の入院生活でした。そして今から6年前には高次機能障害になってしまいました」 高次脳機能障害とは、脳が部分的に損傷を受けたため、言語や記憶などの機能に障害が起きた状態を言う。注意力や集中力の低下、比較的古い記憶は保たれているのに新しいことは覚えられない、感情や行動の抑制がきかなくなるなどの精神・心理的症状が現れ、周囲の状況にあった適切な行動が選べなくなり、生活に支障をきたすようになるのだ。      

きっかけはラブホテル

ニッセンミラクルにつながる多機能持続性除菌洗剤の開発をスタートしたのは、10年前。そのきっかけにはラブホテルが関係していた。   ニッセン6「ファッションホテルの清掃を請け負っている会社に洗剤を卸していたんですが、そこの社長からカビ対策に何かないかと頼まれました。市販のカビ取り剤は効果はあるが臭いが強く困っている、と」   その依頼を受けて、それまで自社で扱っていた除菌消臭剤と食器野菜洗い洗剤を掛け合わせ、使いやすいように改良をしていった。幾多の苦労を乗り越え、洗剤は完成した。 「驚いたことに、夫の介護をしながらだったので、できた洗剤を手っ取り早く風呂などに散布しておくとカビが生えなくなりました。また、排泄物の後片付け後に使用すると、においも残らなかったし、シミも落ちた。これは介護の現場で大いに役立つと実感しました」   ニッセン4 デイサービスの施設などにも配布し使ってもらった。その頃に、この洗剤は機能を端的に表す「ミラクル」と命名された。    

被災地のお役に立ちたい!

それまでは、いわば身の周りの人に使ってもらうために作られていたようなミラクルだったが、ぜひとも活躍させたい場面がやってきた。   ニッセン3「忘れもしません。あの東日本大震災です。被災地の惨状を見るにつけ、ミラクルを使って頂きたいと強く思いました。ああいう場所では水は大変貴重です。ミラクルなら、ほとんど水を使わなくても清掃ができる。その上、除菌消臭の効果も高いのですから、どれほどお役に立てるかと思ったわけです」 実際、普段からミラクルを使用してくれていたお寺の僧侶が、被災地に出向いて現地でこれを使って欲しいと置いていったそうだが、残念ながら使用されることなく破棄されたそうだ。   「お寺には普通のペットボトルに入れて差し上げていました。そんな状態じゃ中身が怪しまれても仕方ないですよね。持っていかれたお坊さんは大変ガッカリされていましたが」 何とか使ってもらいたい一心で、台東区役所に相談に行った。すると商工会の先生を紹介されたという。   「そこでミラクルを見て頂き、実際に拭いてみて効果を実感して頂きました。その後、台東区の中小企業診断士の先生から台東区の助成が出るから、申請して商品化しなさいとアドバイスを頂き、一気に商品化に動き出しました」 その年(平成23年)のうちに、特許申請から商標登録(商品名『ニッセンミラクル』)を行い、商品としてのニッセンミラクルが誕生した。    

いよいよ本格販売へ!

ここで一つ、疑問がある。カビもやっつけられるような強力な除菌力のある洗剤で、食器を洗っても人体に影響はないのか、ということだ。   「ニッセンミラクルに配合されているのは、入れ歯洗浄剤にも使用される人体に安全で優れた殺菌力があるグリシン型両性界面活性剤と、濃縮された食器野菜洗い洗剤です。ですから安全・安心なんです」 このように優れた洗剤・ニッセンミラクルだが、販売できる体制が整ったのは今年に入ってからだそうだ。   「やっとラベルやカタログがきちんと形になって、本格販売ができる体制が整いつつあります。しかし、弊社のような新興のメーカーが、激戦の洗剤市場に参入するのは容易ではありません。日本で販売されている洗剤は約3千種もあるらしいですから。この商品の開発は、私自身の介護経験も活かされていますから、まず介護の業界に使用してもらえれば嬉しい。また保育園、幼稚園、学校などの衛生を必要とする場所で使ってもらえればとも思っています」   「住宅用洗剤+濃縮食器野菜洗い洗剤」というまったく新しいコンセプトのニッセンミラクルなら、必ずや世間をあっと言わせるに違いない。その日まで敬子氏の奮闘は続く……。   obi2_human ニッセン2 ●プロフィール すがぬま・けいこ氏…東京都生まれ福島県育ち。福島県立白河女子高等学校卒業後、千代田学園に入学。同学園卒業後、大成化学薬品株式会社に勤める。同会社を結婚のため退社後、専業主婦に。夫である康行氏の経営する日扇産業株式会社の専務取締役として現在に至る。   ●日扇産業 株式会社 (代表取締役社長/菅沼康行氏) 〒110-0015 東京都台東区東上野3-6-1菅沼ビル4F TEL 03-3833-4670
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